AGU NEWS 特集

「Meet up in AGU 2024」
リポート
2025.3.25

本学における研究の「今」を伝える産学連携イベント

「Meet up in AGU」は、青山学院大学の研究を広く紹介し、産業界等との共同研究や社会貢献への機会創出を目的とする産学連携・研究発信イベントです。6回目となる今回は、青山学院創立150周年記念事業として「響け、青学マインド:青山から未来へ、革新的研究の波動」をテーマに開催。文理の垣根を超えた幅広い研究の「今」をプレナリーセッションやポスターセッションにてご紹介しました。

「Meet up in AGU」とは

2018年から開催されている産学連携・研究発信イベントです。全学的な視点から産官学連携の橋渡し役を担う「リエゾンセンター(青山学院大学統合研究機構内、2018年当時はリエゾンプロジェクト)」が中心となって本学の多様な研究を産業界や社会に発信し、共同研究や社会貢献に関する機会創出を進めています。本学の擁する技術シーズと企業ニーズの貴重な出会いの場であるとともに、学内においては文理の枠や専門領域を超えた研究深化の場となっています。

プレナリーセッション

ビジネスの世界で第一線を走る経営者および本学研究者が登壇。最先端の気象ビジネスから現在進行中の最新の研究まで幅広い内容の講演が行われた後は、活発な質疑応答がなされました。

※以下、敬称略

【講演1】
データ活用による気象ビジネスへの挑戦
株式会社ウェザーニューズ
代表取締役会長
草開 千仁(くさびらき ちひと)

1987年青山学院大学理工学部物理学科卒業後、株式会社ウェザーニューズ入社。
営業本部CSS事業部長、営業総本部航空事業部長、防災・航空事業本部長などを経て、1996年 取締役就任。
以後、1997年に常務取締役、1999年代表取締役副社長、2006年代表取締役社長(経営全般、販売統括主責任者(アジア・ヨーロッパ・アメリカ))、2016年代表取締役社長(最高経営責任者)を歴任ののち2024年6月 代表取締役会長に就任。

株式会社ウェザーニューズ(以下、ウェザーニューズ)は、1970年の海難事故を経験した創業者・石橋博良の「船乗りの命を守りたい」という願いをもとに1986年に創業された企業です。現在では、多彩な気象リスク対応サービスを提供する世界最大級の気象情報サービス会社に成長しました。
ウェザーニューズはこれまで膨大なデータを用いた斬新な気象サービスに取り組んできましたが、その根底には常に「"How Wonderful" から始めよう」という言葉があります。これは「(収益よりもまず)今までにない素晴らしい仕事をしよう」という意味です。
その一例が「北極海航路サービス」です。氷が溶ける夏の間、もし北極海を船が通れるようになれば革新的な航路短縮となります。氷の溶解状態を把握し船の安全を守ることを目的として、ウェザーニューズは民間で初めて商用小型衛星を打ち上げ、この夢を実現しました。
北極海航路には、運航コスト削減に加えてもう一つ大きなメリットがあります。それはCO2の排出量を抑制し環境問題を緩和できるということです。ウェザーニューズは「船乗りの命を守りたい」という思いに基づいて気象を通じた社会貢献を大切にしてきました。新時代の使命として、今後は「地球の未来を守りたい」という夢にも挑戦し続けます。

関連リンク:AGU LiFE「気象情報で人と社会を支援するサーバント・リーダー」

  • 【講演2】
    小地域別将来人口推計
    ウェブマッピングシステムの
    開発について

    青山学院大学
    経済学部長・同学部 現代経済デザイン学科 教授

    井上 孝(いのうえたかし)

    「+」をクリックすると、詳細が表示されます。

    <プロフィール>

    青山学院大学経済学部長、同学部現代経済デザイン学科教授。
    筑波大学大学院博士課程地球科学研究科単位取得済満期退学。筑波大学地球科学系助手、秋田大学教育学部助教授、青山学院大学経済学部助教授等を経て、2024年4月より経済学部長。博士(理学)。専門は地域人口論。
    2024年6月より日本人口学会会長。主な著書に『事例で学ぶGISと地域分析』『日本の人口移動―ライフコースと地域性―』『首都圏の高齢化』『自然災害と人口』『Gerontology as an Interdisciplinary Science』(いずれも共編著)などがある。

    <講演概要>

    小地域別将来人口推計ウェブマッピングシステム」とは、全国の小地域(町丁・字別)を対象に、数十年先までの将来人口推計を行う世界初のシステムです。2016年にウェブ公開し、現在は2065年までの「小地域別の男女5歳階級別人口」のデータをダウンロードできます。
    一般的に将来人口推計には「コーホート変化率法」が用いられてきましたが、この手法には、対象地域を狭くするほど推計値の誤差が大きくなってしまうという問題点がありました。今回この問題を解決すべく「人口ポテンシャル理論」を用いた新手法を提案したことで、小地域に関しても精度の高い推計が可能となりました。
    現在、このシステムは地理学および人口学を中心に応用研究がなされ、私自身も高齢化予測や小地域の無居住化リスクの研究を行っています。自治体では下水道のメンテナンス計画や少子高齢化対策用に既に導入が進んでいます。
    このシステムはSAPP seriesとして各国展開されており、今回は韓国版のデモンストレーションをご覧いただきました。防災やマーケティングの分野など、今後さらなる応用の可能性が見込まれます。

    ※ Small Area Population Projections seriesの略

    関連リンク:AGU RESEARCH「数十年先の人口分布を町丁・字単位で予測し都市計画や防災計画の基礎となるデータを提供する」
          AGU RESEARCH「人口学から読み解く日本の現状と未来」

  • 【講演3】
    複雑な変形流動現象のモデル化と
    シミュレーション

    青山学院大学
    理工学部 情報テクノロジー学科教授

    楽 詠灝(がく えいこう)

    「+」をクリックすると、詳細が表示されます。

    <プロフィール>

    青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科教授。
    2011年東京大学大学院情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻博士後期課程修了。博士(情報理工学)。
    米国コロンビア大学研究員(日本学術振興会海外特別研究員)、東京大学大学院新領域創成科学研究科複雑理工学専攻助教、青山学院大学理工学部情報テクノロジー学科准教授を経て現職。光学や流体などの物理シミュレーションやその形状設計への応用等を中心として、変形物体のモデル化と数値計算に関する研究に従事。

    <講演概要>

    コンピュータグラフィックスは、今や映画などのエンターテインメントに欠かせない存在です。よりリアルな映像表現を求めて、近年では物理学ベースのシミュレーションに基づく映像制作が主流となっています。今回は光学シミュレーションと力学シミュレーションにおける私たちの取り組みをご紹介いたします。
    光学シミュレーションでは「太陽光の散乱」などのモデル化を行っています。既存の手法に比べてデルタトラッキングを380倍も高速化できる手法を開発したことで、雄大な山陰に夕陽が沈んでいくシーンなどもリアルに再現できるようになりました。
    力学シミュレーションでは「流動現象」に取り組んでいます。流動現象とは私たちの身の回りにも見られるもので、料理用のソースや流れる雲、ゴッホの油彩画《星月夜》の空の描写などがそれに当たります。中でも私たちは粘性や弾性を持つ「複雑流体」に注目し、弾性のあるシェービングクリームや、蜂蜜とマヨネーズの混合流体、お粥のように内部に大きな粒を含む流体の研究を行いました。特にお粥タイプの流体については、お粥の実写動画とシミュレーションを組み合わせた推定手法を構築することで、より写実的な表現が可能になりました。


    関連リンク:AGU RESEARCH「ものの動きから芸術家の画風まで、CG技術でより高精度に再現する」

ポスターセッション

ポスターセッションでは、研究者自らが最先端の研究に関する説明を行いました。人文社会科学から理工学分野まで、研究テーマは多岐にわたります。研究者と来場者による活発な意見交換が交わされ、会場は熱気にあふれました。

環境人文学の挑戦――気候危機とともに生きる〈人間〉とは? 文学部 英米文学科
結城 正美
「環境人文学」とは、地球環境をめぐる問題について人文学諸分野が学際的に取り組む学問です。あたかも蜘蛛の造網のように世界各地で学びが進展している中、本学でも3つのプロジェクトが進められています。今回はそのプロジェクト「AGU環境人文学フォーラム」「〈人間以上(モア・ザン・ヒューマン)〉の想像力と語り――環境人文学の研究教育基盤形成に向けて」「環境人文学プログラム」の説明に加え、個人研究「気候ナラティブにみる〈生存の文化〉の湧現emergence―環境人文学の対話に向けて」の紹介を行いました。

曜日ごとに需要が変動する日配品の需要予測手法に関する事例研究―加工食品メーカーの研究協力を受けて開発した手法と実務への導入について― 国際マネジメント研究科
中塚 昭宏
加工食品メーカーと協働して、日配品(乳製品)を対象とした食品ロスの削減に取り組んでいます。調査の結果、日配品は曜日によって需要量が変動すること、廃棄原因の73%は需要予測精度の低さによるものということが明らかになったため、曜日と関連した予測方法の開発を行いました。担当者の属人的な経験値に依存していた既存手法に対し、新たに統計的手法を提案・実施したところ、既存手法と提案手法の予測精度は同等もしくは提案手法の方が高いという結果になりました。さらに提案手法は担当者間の業務引き継ぎがスムーズである点も評価されました。今後は提案手法のマニュアルを作成し、需要予測手法の定着を目指していきます。

次世代サーマルマネージメントを担う超熱伝導ヒートパイプの開発 理工学部 機械創造工学科
麓 耕二
「超熱伝導ヒートパイプ」とは、世界初かつ世界最高の性能を誇る革新的な熱輸送デバイスです。2022年に開発したこのヒートパイプには特殊構造のアルミ扁平多穴管が用いられ、放熱用デバイスとしてあらゆる熱問題を解決します。例えば電気自動車のバッテリーや自動運転用のECU(電子制御ユニット)、胃カメラなどの医療機器、高速通信5G/6G用のECUなど、多種多様なデバイスに関する高度な熱マネジメントを実現します。

異文化接触と偏見の解消:移民統合における高等教育の役目を探る 国際政治経済学部 国際コミュニケーション学科
奥村 キャサリン
昨今、日本では労働力不足の補塡という切り口で移民問題が取り上げられています。外国人労働者と日本人との良好な関係作りを模索するために外国人労働者の現状を調査した結果、地域における外国人労働者の孤立状況が明らかになりました。偏見の発生や地域住民との摩擦を抑制するために大学は何ができるかを探り、今後は外国人労働者と日本人学生をつなぐオンラインコミュニケーションツールの提供や、スポーツイベントの開催などを行っていく予定です。