特集 1

社会貢献に関する取り組みと
「こどもの城合唱団」
との地域連携

本学における社会貢献と「こどもの城合唱団」との絆

「地の塩、世の光」というスクール・モットーのもと、社会貢献に取り組んできた青山学院大学。大学として組織力強化の観点から、2022年度シビックエンゲージメントセンター開設に加え、社会連携課を新設し、さらなる取り組みを進めています。今回は、本学の社会貢献と、地域で活動を続ける「こどもの城合唱団」との連携についてご紹介します。

多様な貢献活動を通じ、さらなる「地域に開かれた大学」を目指す

学長

阪本 浩

1954年(昭和29)年生まれ。宮城県仙台市出身。文学修士(東北大学)。青山学院大学文学部史学科卒業。東北大学大学院文学研究科西洋史学専攻博士課程前期二年の課程修了。東北大学文学部助手、青山学院大学文学部史学科専任講師、助教授を経て、1999年教授に就任。その後、2016年に文学部長、大学院文学研究科長、2017年副学長を歴任。2019年12月青山学院大学学長に就任。

本学は、キリスト教信仰にもとづく教育を行い、新約聖書「マタイによる福音書」の言葉、「地の塩、世の光」をスクール・モットーに掲げています。これは、青山学院に連なるすべての人が、塩のように目立たぬ仕方で味付けをし、人々のかけがえのなさを引き出し、腐敗を防ぎ、汚れを清める存在であること、また希望の光として励ましと力、あたたかさを周囲に発することができる人であることを謳ったものです。さらに近年は、「すべての人と社会に仕えるサーバント・リーダーの育成」を学院ビジョンに掲げています。これらをもとにして地域社会への奉仕や貢献を積極的に進めることが、本学の伝統となっています。

2011年の東日本大震災発生時には、多くの学生有志が復興支援ボランティアを行いました。また地震発生当日には、帰宅困難者の方々を受け入れるために青山キャンパスの青山学院記念館(大学体育館)を開放したことが「地域に開かれた大学」への進化へとつながりました。同年には学生のボランティア活動を後押しする「ボランティア・ステーション」が立ちあがり、後年「ボランティアセンター」へと名称変更したのち、より広範な社会貢献を目指して2022年度「シビックエンゲージメントセンター」に改組・拡大しました。また、既存の「社会連携機構」を「社会連携推進機構」に改組し、それを支える事務組織として「社会連携課」を新設しました。この改組・新設によって、本学の社会貢献活動を集約、連携することが可能になり、さらに強力に取り組みを推進できるようになりました。

本学の社会貢献活動は、青山・相模原の両キャンパスがある地域で積極的に進められています。

青山キャンパスがある地域においては、本学シビックエンゲージメントセンターを介し「渋谷区こどもテーブル」「Green Up Project(清掃活動)」などの地域活動が行われています。近隣地域の大学間における学問交流を目的とした取り組みとしては「渋谷4大学連携協議会」を立ちあげました。これは、國學院大學、実践女子大学・実践女子大学短期大学部、聖心女子大学、および本学の4大学間で連携し、地域の皆さまを対象とした講演会などの共同開催を進めるものです。また2016年からは、青山学院記念館が「サンロッカーズ渋谷(プロバスケットボールB.LEAGUE所属チーム)」のホームアリーナとして使用されています。これはスポーツ文化の振興と地域コミュニティの活性化を目的とした「産・官・学」の取り組みの一環となるものです。

相模原キャンパスがある地域では、「相模原・町田大学地域コンソーシアム」(通称「さがまちコンソーシアム」)などの自治体連携が盛んです。「おとなりボランティア(相武台団地活性化プロジェクト)」、「藤野プロジェクト(相模原市緑区藤野の里山地域社会貢献)」などでは学生が活躍し、地域の活性化を進めています。

スポーツ振興と地域コミュニティ活性化の一環として、青山学院記念館が「サンロッカーズ渋谷」のホームアリーナに © SUNROCKERS SHIBUYA

さらに2019年度には、「地域を活かし、地域で活きる、実践知」をテーマに掲げた「コミュニティ人間科学部」を新設しました。学生たちは、コミュニティ(地域社会)とそこで暮らす人々の活動を実践的に学ぶことで、地域創生に必要な力を身に付けます。このように地域貢献を専門とした学びは全国においても特色のあるものと自負しています。この春には第一期生が社会に羽ばたきました。卒業生たちが各地域で活躍してくれることを期待しています。

また、現代は生き方が多様化し、リカレント(学び直し)教育などのニーズも高まっているため、本学では「生涯学習」支援として地域の社会人を対象とした学習機会も積極的に提供しています。例えば、社会人講座「青山アカデメイア」や、各種の公開講座・講演では「司法通訳養成講座(東京外国語大学との連携)」「青山・情報システムアーキテクト育成プログラム(ADPISA)」といった学習プログラムが整えられています。将来的には、生涯学習に関する専門機関を新たに設け、さらに強力に取り組みを推進していく考えです。

こうした地域貢献の考えを背景として、2015年からは「こどもの城合唱団」との連携を進めています。もともと、こどもの城合唱団は、本学青山キャンパスの向かい側にあった国立総合児童センター「こどもの城」で練習を継続されていました。しかし2015年にこどもの城が閉館となったことを受け、本学が合唱団の練習会場として青山キャンパスの空き教室などをご提供しています。

こどもの城合唱団は、毎年本学のガウチャー記念礼拝堂でクリスマスコンサートを開催されています。子どもたちの素晴らしい歌声を耳にしたとき、あふれ出るエネルギーに私自身強く胸を打たれました。世代や性別、国籍や障がいの有無を超えた多様なメンバーでひたむきに活動される合唱団の皆さまには敬意を表するとともに、「地の塩、世の光」という大きな目標を目指す私たちも励まされる思いです。これからも、地域に開かれた大学として協力いたします。子どもたちの歌声が会場を包み、ご来場の皆さまが笑顔であふれるコンサートが今後も継続されますよう願っています。

こどもの城合唱団は毎年、本学のガウチャー記念礼拝堂でクリスマスコンサートを開催(画像は昨年の様子)

「地の塩、世の光」の精神と、子どもたちの歌声が豊かに響き合った8年間

特定非営利活動法人こどもの城合唱団 代表理事、指導者・指揮者

吉村 温子

こどもの城オープン前より音楽事業部の企画に携わり、こどもの城児童合唱団・混声合唱団の設立当初より指揮を執る。他にも幼児のための親子リトミック、就園前の親子リトミック等、幼児から大人までを対象に幅広くユニークな音楽表現活動を展開。元玉川大学非常勤講師、東京家政大学非常勤講師、日本オペラ振興会会員、日本音楽療法学会会員 など。

私たち「こどもの城合唱団」は、「みつけよう、すきなこと」をテーマに、世代や国籍、障がいの有無を超えたインクルーシブなメンバーで構成された合唱団です。今年で35周年を迎え、なかには3世代で参加しているメンバーもいます。

青山学院大学が「ぜひ子どもたちの練習の場に」と初めて空き教室を提供してくださったときから8年がたちます。2015年、老朽化などを理由に、当合唱団の母体かつ練習場所であった国立総合児童センター「こどもの城」が閉館となってしまい、後継の練習場所を探して駆け回っていたところ、私たちの窮状を耳にした青山学院大学が積極的に支援の手を差し伸べてくださったのです。

空き教室のご貸与をはじめとして、子ども用トイレの設置、伴奏用の電子ピアノや母の日イベント用のカーネーションのご提供など、ご支援は多岐にわたります。私がいつも驚くのは、それらのご支援が本当にさりげなく行われることです。例えばキャンパスでの初練習の日のことです。お手洗いをお借りした子どもがびっくりした様子で駆け戻ってきて「先生、子ども用のトイレがあったよ!」と教えてくれたのです。練習に訪れる子どもたちのことを考え、あらかじめ設備をご用意くださっていたのでした。青山学院のスクール・モットーは「地の塩、世の光」であると伺っています。ひけらかすことのない有形無形のご支援に、私は、まさに「地の塩」の精神を感じました。

こどもの城閉館セレモニー

同時に、それらのご配慮の背後にある「想像力」の豊かさにも心を打たれました。なぜなら「想像力」とは、私が子どもたちに一番願っているものだからです。合唱とは、自分とは異なる人のことを想像し、互いに声を響かせ合う営みです。ことに、さまざまな個性を持つメンバーが集うこどもの城合唱団では、まず個が個として輝き、その輝きが響き合って大きなパワーを生むことを目指しています。子どもの輝きはその子によって違います。健常の子どもが得意とすることもあれば、障がいを持つからこそ「これをやりたい」という強い気持ちが生まれ、息をのむほどの素晴らしい表現につなげる子どももいます。子どもたちが一番輝く場面を見つけ出すのが、合唱団の指導者の役割だと思っています。

「響き合い」をより豊かなものにするためには、多くの出会いが必要です。音楽やアートなど幅広い出会いを通じて、子どもたちはいろいろなことを感じます。そこから、隣人への想像力、豊かな創造力が育まれ、そのハーモニーがこどもの城合唱団ならではの音楽を作り上げていると思います。

その出会いとなる機会も、青山学院大学は数多くご提供くださっています。5月の「母の日」イベントでは美しいカーネーションをお贈りくださり、子どもたちは思い思いの花束を作ります。12月にはガウチャー記念礼拝堂でクリスマス公演も開催させていただいています。この公演はチャリティーとして行い、コンサートの収益金やクリスマス献金を寄付させていただくことで、社会貢献について子どもたちが学ぶ機会にもなっています。2021年には、東京2020パラリンピック閉会式で子どもたちによる国歌斉唱の機会をいただきました。これも、こどもの城閉館という合唱団存続の危機に、青山学院大学が練習場所を提供してくださり、活動を継続できているおかげです。

合唱の練習の日、子どもたちはスキップしながら青山キャンパスへ向かいます。子どもたちが楽しく安心して練習できるのは、青山学院の皆さんが常に合唱団を気に掛けてくださっているからに他なりません。子どもたちは、青山学院大学とのご縁を通じて「地の塩、世の光」にもとづいた社会貢献の姿勢や、こまやかなご配慮など多くのことを学び取っています。心より感謝を申し上げます。再来年の2025年3月にはご縁が生まれてから10周年を迎えます。この節目に向かってさらに子どもたちの活動の場を広げ、音楽を通して多くの方々に真のインクルーシブな活動をお伝えしていきたいと思います。

本学での練習風景